Sinful Sheep 第3話

<雨の中のワルツ>




・・・・・・・・


ザアアアアア・・・・・。



天から降り続く恵みの流れ。


通常の人間なら傘でもさして避けるところであろうが、その少女は、違った。

「あははははっ!」

ぱしゃぱしゃ、と音を立てて水滴を体全体に浴びながら笑顔を輝かせている。

その少女がふいに、後ろを振り返った。

「おいでよ!雨が気持ちいいよー」



その視線の先には、辟易した顔の、魔族が・・・いた。



「・・・・風邪を引くぞ」

「あは!引いたら引いたで、あなたに看病してもらえるから別にいいよ!」

「・・・・・。」

「来ないのー?」

傘の下で呆れ顔をしていた男が、ふいに口を開く。

「・・・・こけるぞ、雨の中そんなに暴れてると」

「だーいじょーぶよー・・・」

笑顔のままくるりとターンして答えた少女だったが、その時。

「って、あれっ」

思いきり身体が傾く。

「きゃ・・・」

「!!!!」

一瞬だった。

ドサッ!!!!

「・・・・。」

目を固く閉じて、来るであろう衝撃にかまえていた少女だったが、地面の硬さと冷たさは無い。

「・・・・?」

あるのはしっかりと力強く自分を抱きしめる、誰かの感触。

そっと目を開けると、目の前に、光り輝く金色の瞳が。

「馬鹿者、だから言ったではないか・・・」

その瞳には、自分を気遣う色がありありと表れていた。

「あ・・・・」

その真剣な眼差しに、思わず言葉を詰まらせる少女。

長く整った銀の巻き毛、その頭部の立派な角、黄昏の色をしたマント。その全てが一瞬にして雨に染まる。

そして男の端整な瓜実形の顎からは、水滴が滴り落ちて、少女の顔に落ちていく。

濡れるのは嫌いだったはずなのに。

傘もかなぐり捨てて。



・・・・・自分のために、来てくれた。



「ありがとう・・・」

少女の言葉にも口を真一文字にむすんだままの男。

「・・・・。」

だが。

「伯爵様、大好き!!」

そのまま少女は、抱きしめたのだった。

自分を支えているその男を。

カウントテンを。



「な・・・」



金の瞳が大きく見開かれる。

一瞬、たじろいだカウントテンだったが、自分を抱いているその少女を、優しく抱き返したのだった。

その身体は細く痩せ細っていて、魔族である自分が少し力を入れれば、容易に折れてしまいそうなくらい。

「・・・・・」

眼下の雨に濡れた少女の髪は濃く色づいて、やわらかな香りがする。

しばらく、お互いの体温を感じていた二人だったが、やがて。

「伯爵様・・・濡れちゃったね」

「・・・そうだな」

今はもう、お互い濡れ鼠だ。

「・・・・。」

「・・・・ふ」

少女とカウントテンの口元が、同時にふいに緩む。

「はははははっ・・・・!」

「あはははっ!!」

二人の笑い声が、空中に響く。

雨音は激しくなったいたが、そんなことはおかまいなしだ。

少女はすっくと立ち上がり、カウントテンに手を差し出し言った。

「踊ろ!伯爵様!!」

その手を見つめたままのカウントテンだったが。

「雨の中のワルツ、か・・・・それもいい」

やや皮肉ったような笑いを浮かべて、少女の腰に手を回し、自らの角張った手のひらに、その繊細な手をのせた。





雨の音さえもロンドとするように。

二人は笑顔のまま、いつまでも踊りつづけた。



いつまでも。



{つづく}

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