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ザアアアアア・・・・・。
天から降り続く恵みの流れ。
通常の人間なら傘でもさして避けるところであろうが、その少女は、違った。
「あははははっ!」
ぱしゃぱしゃ、と音を立てて水滴を体全体に浴びながら笑顔を輝かせている。
その少女がふいに、後ろを振り返った。
「おいでよ!雨が気持ちいいよー」
その視線の先には、辟易した顔の、魔族が・・・いた。
「・・・・風邪を引くぞ」
「あは!引いたら引いたで、あなたに看病してもらえるから別にいいよ!」
「・・・・・。」
「来ないのー?」
傘の下で呆れ顔をしていた男が、ふいに口を開く。
「・・・・こけるぞ、雨の中そんなに暴れてると」
「だーいじょーぶよー・・・」
笑顔のままくるりとターンして答えた少女だったが、その時。
「って、あれっ」
思いきり身体が傾く。
「きゃ・・・」
「!!!!」
一瞬だった。
ドサッ!!!!
「・・・・。」
目を固く閉じて、来るであろう衝撃にかまえていた少女だったが、地面の硬さと冷たさは無い。
「・・・・?」
あるのはしっかりと力強く自分を抱きしめる、誰かの感触。
そっと目を開けると、目の前に、光り輝く金色の瞳が。
「馬鹿者、だから言ったではないか・・・」
その瞳には、自分を気遣う色がありありと表れていた。
「あ・・・・」
その真剣な眼差しに、思わず言葉を詰まらせる少女。
長く整った銀の巻き毛、その頭部の立派な角、黄昏の色をしたマント。その全てが一瞬にして雨に染まる。
そして男の端整な瓜実形の顎からは、水滴が滴り落ちて、少女の顔に落ちていく。
濡れるのは嫌いだったはずなのに。
傘もかなぐり捨てて。
・・・・・自分のために、来てくれた。
「ありがとう・・・」
少女の言葉にも口を真一文字にむすんだままの男。
「・・・・。」
だが。
「伯爵様、大好き!!」
そのまま少女は、抱きしめたのだった。
自分を支えているその男を。
カウントテンを。
「な・・・」
金の瞳が大きく見開かれる。
一瞬、たじろいだカウントテンだったが、自分を抱いているその少女を、優しく抱き返したのだった。
その身体は細く痩せ細っていて、魔族である自分が少し力を入れれば、容易に折れてしまいそうなくらい。
「・・・・・」
眼下の雨に濡れた少女の髪は濃く色づいて、やわらかな香りがする。
しばらく、お互いの体温を感じていた二人だったが、やがて。
「伯爵様・・・濡れちゃったね」
「・・・そうだな」
今はもう、お互い濡れ鼠だ。
「・・・・。」
「・・・・ふ」
少女とカウントテンの口元が、同時にふいに緩む。
「はははははっ・・・・!」
「あはははっ!!」
二人の笑い声が、空中に響く。
雨音は激しくなったいたが、そんなことはおかまいなしだ。
少女はすっくと立ち上がり、カウントテンに手を差し出し言った。
「踊ろ!伯爵様!!」
その手を見つめたままのカウントテンだったが。
「雨の中のワルツ、か・・・・それもいい」
やや皮肉ったような笑いを浮かべて、少女の腰に手を回し、自らの角張った手のひらに、その繊細な手をのせた。
雨の音さえもロンドとするように。
二人は笑顔のまま、いつまでも踊りつづけた。
いつまでも。
{つづく}