汝、黒き聖なる森に堕ちし白き罪深き羊なり
原野に角あるもの
光輝く空に翼あるもの
荒々しい太陽から放たれるもの
そは地獄よりの使者なりて天国への密使いなり
鉛色の空から雨が、降り続いている。
森は濡れて色を増し、その中にたたずむ城は重く変色している。
その荘厳な城の中から、窓越しに外の景色を見つめる一人の人物が。
「・・・よく降るな。」
低いテノールは、どこまでも通るようだ。
その人物は苦い顔で髪をばさり、とかきあげた。
長い巻き毛が揺れ、前髪に隠れていた瞳があらわになる。
と同時に、全身をおおう漆黒の衣服が、軽い衣擦れの音を立てた。
魔族。
という言葉があまりにもしっくりくるその姿。
褐色の肌に、人間ではありえぬ銀の髪に、光り輝く金色の瞳。
頭からは群青の立派な角。
男の名は、カウントテン。
まぎれもない、魔族だった。
その時、マホガニーで作られた扉が、蝶番(ちょうつがい)を軋ませながら開いた。
「伯爵様は雨がお嫌いでしたな」
言いながら部屋に入ってきたのは、伯爵と呼ばれた男と同族で、同じく銀の巻き毛。
その頭からはくるりと巻いた角が生えている。この城の執事だ。
「冷えてきましたので、お茶をお持ちいたしましたよ」
「すまんな、セバスチャン」
「いえいえ、とんでもございません」
言いながらセバスチャンと言われた男は、目の前の小さいが見事な装飾を施したテーブルに
紅茶入りのポットとカップ、それに葉巻の入った箱を置いた。
カウントテンは葉巻を一本取り出し、火を点ける。
ふわり、と浮かぶ紫煙の向こう側では、なめらかな琥珀色の液体がちょうどカップに注がれている最中であった。
「・・・雨にはいい思い出が無いからな」
葉巻をくゆらせながら、側の椅子へと腰掛ける。
そこにちょうどいいタイミングで紅茶のカップが置かれた。
「・・・ええ・・・。」
手際良く、角砂糖をひとつ、カウントテンのカップに落とす。自分のにはふたつ。
「この時期は、わたくしも気が滅入ってまいります」
伯爵の反対側に、執事も腰掛ける。主の葉巻の下に、灰皿をすべりこませながら。
カウントテンは瞳を閉じて、しばらく紅茶を堪能していた。
葉巻の紫煙が、灰皿の中で渦を巻いて昇っていく。
外では雨が、一層強さを増しているようだった。
{つづく}