ああ
お前は天から落ちた。
明けの明星、曙の子よ。
お前は地に投げ落とされた。
もろもろの国を倒した者よ。
かつて、
お前は心に思った。
『わたしは天に上り、
王座を神の星よりも高く据え、
神々の集う北の果ての山に座し、
雲の頂に登って、
いと高き者のようになろう』
と。
しかし、
お前は陰府に落とされた。
墓穴の底に。
暁の輝ける子、
ヘレル・ベン・サハル、
すなわち
ルシフェルよ。
地獄の最も深き第9番目の層。
その最下層の「底なしの窖(あな)」と呼ばれる井戸。
最も罪深き咎人の収容所。
その奥の氷に閉ざされし、
コキュトスの池。
下半身を凍り漬けにされ、動けなくなった、
かつての識天使、ルシフェルがそこにはいた。
唯一動かすことの出来る両腕で、たえず奏で続けるのは美しく悲しい旋律。
地獄の支配者と恐れられ、ヒトに光を齎(もたら)した者として崇められる孤独の魔王。
「・・・私は、間違っては・・・いない」
唯一神を絶対権力者とする独裁体制を不服として、反乱軍を組織し、神に刃向って一敗地にまみれ。
「・・・助けたかっただけなのだ」
唯一神に悪魔のレッテルを貼られ、次々と貶められる異教の神々を。
「何が、神だ・・・」
唯一神の手によって抹殺されていく異教を信じた人間たちを。
「・・・・お前は、神では無い!!」
唯一神と、それに仕えたものが築いた死山血河。
「ただの・・・」
最後の言葉は、コキュトスの池に吹き込む凍てつく冷たい風にかき消された。
それでも彼は叫びつづける。
自らの想いのたけを竪琴の音に乗せて。
いつかこの音色(想い)が、地上に届くことを信じて。
{おわり}
※・・・参考文献{イザヤ書}
でも特定の宗教とは関係ありません。